今回は――「偉大な息子たちのおかげで、ちょっぴり脚光を浴びた父親たち」の、
勝小吉と遠山景晋による、豪放洒脱な対談をお届けします！

《あの世のBIG対談》

――「俺たち、意外といい親父だったんだぜ？」勝小吉×遠山景晋 編

ここは、あの世の茶屋。
白壁の町屋を思わせる粋な店構えに、二人の男が向かい合って座っていた。

勝小吉：「おう、遠山の親父さんよォ。こうして差し向かいってのも、なかなか乙なもんじゃねえか！」

遠山景晋（けいしん）：「ふふ、まったくだ。あの世に来てまで、こんな風に名を呼ばれるとは思わなかったよ」

二人の間には、すでに熱燗と肴（さかな）が並び、すっかり打ち解けた空気が流れている。

勝小吉：「それにしてもよォ、オレら、ちょいと得したクチだよなァ」

景晋：「得……というと？」

小吉、豪快に笑う。

勝小吉：「だってよ、正直オレなんざ、ただの江戸の喧嘩っ早いオッサンだぜ？ けどよ、倅（せがれ）の海舟が後の世であんなに大物になりゃあ、ついでに“勝小吉、破天荒な男”なんてドラマまで作られちまってよ！ 主役だぜ？ オレが！」

景晋も笑いながら盃を傾けた。

景晋：「わかるなぁ、それ。私も、本来ならただの旗本の一人。だけど、金四郎――景元が『遠山の金さん』として後の世で大人気になったおかげで……なぜか“金さんの親父も只者じゃなかった！”みたいに扱われてる」

勝小吉：「ははっ！ 親父冥利に尽きるってもんだなァ！」

（ふたり、どっと笑う）

景晋は、ふと真顔になり、盃を置いた。

景晋：「だがな、小吉殿。私たちも、ただの棚ぼたではないと思っている」

勝小吉：「ん？」

景晋：「子は親の背を見て育つ。……たとえ世間の評価がどうあれ、日々を一生懸命に生き、笑い、時に叱り、時に励まし――それを積み重ねたからこそ、あの子らは大成したのだ」

小吉はしばらく黙り込み、それからぐっと酒をあおった。

勝小吉：「……ああ、そりゃァそうだ。オレもよ、海舟を偉人にしようなんて思っちゃいなかった。ただ、あいつが生き抜けるように、世渡りができるように、それだけを考えて育てた。オレの背中……見せられるもんがあったかどうかは知らねぇがな」

景晋：「見せたさ。十分に、な」

二人の間に、どこか誇らしげな沈黙が流れる。

景晋：「ところで、小吉殿。ドラマで描かれたお前さん、“無鉄砲で女好きで、でも憎めない好漢”って感じだったが、あれ、実際のところ、どうなんだ？」

勝小吉：「……まぁ、大体合ってる」

（あっさり）

景晋：「はっはっは！ だろうと思った！」

勝小吉：「けどな、オレが遊び人やってられたのは、しっかりした女房がいたからよ。お信（おのぶ）がな。あいつがいなきゃ、オレも海舟も、とうの昔に野垂れ死んでたかもなァ……」

景晋も、静かに頷く。

景晋：「家族の支えあってこそ、か」

勝小吉：「ああ。オレたちゃ、運がよかったのさ。家族に、子供に、恵まれた」

遠山景晋と勝小吉は、互いの盃を静かに掲げた。

勝小吉：「倅（せがれ）に、そして、女房たちに！」

景晋：「そして、オレたち自身の生き様に！」

カチン、と盃が小気味よい音を立ててぶつかり合う。
あの世の茶屋に、粋で晴れやかな笑い声が響き渡った。