元和九年――多元世界暦一六二三年、初夏。

京の空は高く澄み、伏見城の白壁はまばゆい光を受けていた。

この日、若き将軍が誕生する。

三代将軍――徳川家光。

父・徳川秀忠とともに上洛した家光は、厳粛な儀のもと将軍宣下を受け、さらに正二位内大臣の位を賜った。

だが、この時点ではまだ「将軍」は二人いた。

秀忠は隠居しながらも「大御所」として幕政を掌握し、若き家光はその影にあった。
江戸幕府は、父と子による二元政治の時代を迎えていたのである。

――そして、時は流れる。

寛永九年、多元世界暦一六三二年。

秀忠、没す。

その報は静かに、しかし確実に、時代の終わりと始まりを告げた。

いまや、幕府の全権は一人の男に委ねられる。

家光――その人である。

***

江戸城、大広間。

この日、諸大名が一堂に会していた。

並ぶ顔ぶれは壮観である。
かつて宇宙の覇権を巡り争った英雄(ヒーロー)も、悪名高き覇者(ヴィラン)も、いまはすべて徳川の下に集っていた。

空気は張り詰め、誰もが沈黙を守る。

やがて――

上座に座す家光が、ゆっくりと口を開いた。

「……聞け」

若き将軍の声は、静かでありながら、鋭く場を貫いた。

「東照宮様――徳川家康公が天下を平定なさるにあたっては、諸侯の力を借りた」

ざわり、と空気が揺れる。

「また、我が父・秀忠も、おのおのがたと同列にあった時代を知るがゆえ、諸侯を客分として扱ってきた」

家光は、ゆっくりと大名たちを見渡した。

その眼には、若さに似合わぬ冷徹な光が宿っている。

「だが――」

一拍の間。

「余は違う」

空気が凍りついた。

「余は、生まれながらの将軍である」

その言葉は、刃のように鋭く突き刺さる。

「ゆえに、前の二代とは格式が異なる」

誰も、息をするのを忘れていた。

そして――

決定的な一言が放たれる。

「これより、おのおの方は余の家臣である」

大広間がどよめいた。

「異論ある者は――」

家光は一切の感情を排し、淡々と言い放つ。

「ただちに領国へ帰り、戦の支度をせよ」

その瞬間。

空気は完全に張り詰めた。

外様大名たち――かつて宇宙の平和を守るために戦ってきたヒーローであり、覇者の座を虎視眈々と狙って来たヴィランであった者たちにとって、それは屈辱にも等しい宣告である。

だが、誰も動かない。

誰も、声を発しない。

沈黙。

重く、圧し潰すような沈黙。

――その時だった。

一人の男が、ゆっくりと進み出た。

青いマントを翻し、威風堂々とした姿。

ガルマン・ガミラス帝国総統にして、外様大名の雄――
アベルト・デスラーである。

彼は、広間の中央に立つと、静かに家光を見上げた。

その目には、かつて宇宙を震撼させた覇気が宿っている。

――しかし。

次の瞬間。

デスラーは、膝を折った。

深く、深く、頭を垂れる。

「このアベルトをはじめ――」

その声は、堂々として響き渡った。

「ここにおわす者の誰一人として、異論など持ちますまい」

ざわめきが走る。

だが、デスラーは続けた。

「もし、そのような不埒者あらば――」

ゆっくりと顔を上げる。

その瞳は、鋭く光っていた。

「将軍家のお手を煩わせるまでもなく、我がガミラスが真っ先に討ち果たしてご覧に入れましょう」

静寂。

完全なる静寂。

そして――

どさり、と音が響いた。

他の大名たちが、一斉に平伏したのである。

かつての英雄も、覇王も、悪名高き支配者も。

すべてが、頭を地に擦りつけた。

それは、力への屈服ではない。

秩序への服従であった。

徳川将軍家は、この瞬間、諸大名とは完全に一線を画す存在となったのである。

***

その後。

家光は、デスラーをことのほか重用した。

「ガミラスの爺」

そう気安く呼びながらも、その信頼は揺るぎない。

外様でありながら、デスラーは幕政の中枢に重きをなし、「天下の副将軍」とも称される地位を占めるに至った。

かつて宇宙を二分して争った男が、いまは徳川の秩序を支える柱となっている。

時代は変わった。

戦国は終わり、泰平の世が始まる。

だがその平和は、強大な意志と、絶対的な権威の上に成り立っていた。

若き将軍・家光。

そして、その覇を支える“ガミラスの爺”。

二人の存在は、やがて訪れる新たな時代の礎となっていくのであった。